街はいよいよの冬のページェントに向けて、綺羅とした光の綾をまとう時節。
木枯らしに舞う落ち葉を蹴立てて、気ぜわしそうに人が車が行き来し、
冬の催事の中、降誕祭を楽しもうというイルミネーションやライトアップが、
陽の落ちるのが早くなった街を華やかに彩り。
そんな街並みをそぞろ歩く人々へ向けたイベントもあちこちで催され始めている模様。
聖歌隊が立つにはまだ早いが、週末だけジャズを演奏するステージが設けられたり、
立ち飲み酒場ならぬ 立ち飲みカフェが期間限定で設置され、温かなカフェラテなぞ提供されたり。
そんなこんなを覗きつつ、
好いたらしいお人と星降る夜を模したよな街路でロマンチックな雰囲気を堪能するのも良いが、
昨今のご婦人らはそれだけじゃあ収まらぬ。
「ポートサイドホテルのスイーツバイキングが話題ですのよ?」
ご婦人たちへの吸引力抜群な、
クリスマスに向けたスイーツの情報も取り沙汰されていて。
こちら、武装探偵社でもそこは変わらぬ、
甘いものには目がないナオミや事務員の春野綺羅子が、
今一番旬な話題をと昼休憩の談笑の中で取り上げており、
「手際よく焼いたクレープにラム酒を掛けて火をともし、
フランベして仕上げるデザートとか、
液体窒素で材料を凍らせて、目の前でシャーベットを作ってくれますの。」
それはなかなか華やかな趣向だと、
話を聞いてた皆がほわぁと甘い甘い歓声を上げ、
斬新さへ驚いてだろう目を丸くする。
スイーツバイキングと言いつつ、パスタやサラダも用意されているそうで、
それにしたって、
「バイキングというからには、要は食べ放題のことだろう?」
外で定食を平らげて来た国木田が彼女らの話題に怪訝そうな顔になったのは、
ランチやモーニングならともかく、と、
微妙な部分でどうにも腑に落ちなかったからで。
「生菓子だろうに、そんなにも食べられるものなのか?」
「あら、女の子にとってのスイーツは単なる甘味じゃありませんわ。」
普通のコース料理を食べた後でも別腹が空いて、
パフェの一杯くらい楽勝で入るくらいですものと、
何とも謎めいた武勇を語る。
男性がどれほど酒を呑めるかへ胸を張るのと似たようなものだろかと、
国木田が恐々と探るような顔になったのは、
今日日の女性の勇ましさを痛感しているのか
はたまた将来的に恋人が出来た折の参考にするからか。
「…どのくらい食べるのだ?」
恐る恐るに訊いたところ、
「まあ…そういうところのケーキだと
小さめに切り分けられてはおりますが、」
それでも8つや9つは軽く食べられますわよと、
ナオミが綺羅子や周囲の女性社員らと顔を見合わせ
“ねぇ”と当然顔でころころ笑い合う。
彼女ら曰く、数ではなくて種類を制覇することに意義があるのだそうで。
あすこのはババロアやシュークリームも絶品で。
タルトやパフェに乗っているフルーツも厳選されていて、
最高級の果物を単品で買うことを思えば、
イチゴにメロンにリンゴ、マスカットや黄桃に、
オレンジやブルーベリー、マンゴーやライチまでという各種色々が
バイキング料金の範囲内で食べられるのだからむしろ安くつくと、
ちゃんと合理的な計算もした上での贅であるらしく。
それでなくともクリスマスも間近で、
各所で集客に躍起になってかサービスも豊富ならしく、
繁華街のイルミネーションだのイベントだのを取り上げちゃあ
皆して賑やかに笑っているが、
「…。」
自分も関心ありますと加わらないまでも、
そんな様子をほのぼの見やっているかと思いきや、
自分の席に戻っていた敦少年は どこか憂いた顔で沈んでおいで。
まだまだ薄い肩を力なく落としている様子を、
本来は接客用だが、もっぱら休憩用の簡易ベッドと化しているソファーに
我が物顔で寝転んでいた太宰が “おや”と気づき、
“…そういや、彼奴は外征中か。”
少年にとっての最愛の想い人、ポートマフィアのちっちゃな箱入り幹部殿は、
先週の頭から北陸寄りの奥関東へ遠征中だとか。
提携組織からの依頼での討伐らしいが、
どんな場所へ何時までというのは知らされてないようで、
いろいろと極秘な部分もあるがための制約が厳しく、
電話もメールもダメという状況が続いているに違いなく。
そんな曖昧な格好でちょっとばかりヨコハマを離れているの、
大事な仕事でと判っちゃあいるし、
腕っぷしも確かなお人だ、その身もそうそう案じることはなかろうが、
顔も見られずお声も聞けず、メールでの想いも伝わらぬとあって、
何とも寂しいと、浮かないお顔になっているらしく。
“やっと何とか、自分から甘えられるようになったっていうのにね。”
親しい人へほど嫌われるのは嫌だという想いが強くなり、
物怖じが抜けず緊張がとれなんだ “二律背反”な段階から脱し、
随分と思い切りよく甘えかかれるようになっていたのに。
微妙に“寸止め”状態ながらも、
肌と肌触れ合わせ、慈しみ合えるまでとなっていたのに。
そこからいきなりのこの状態は、成程、やるせなくなりもしようと、
感慨深げに目許をしばたたかせた、頼もしき先輩殿。
身を起こし、自分の席でもあるお隣のデスクまでをつかつかと運ぶと、
「敦くん、そんなお顔はおよし。」
確かに心許ないには違いなかろうが、
だからと言って陰鬱な顔して打ち沈んでばかりいるのは
精神衛生上よろしくない。
艶やかなまでに整った、精緻な美貌をちょっぴり悪戯な笑みに染め、
太宰は浮かぬ顔の少年を覗き込むと、
「安心したまえ。
ポートマフィアもウチと同じで、盆暮れも正月もクリスマスもない。」
「…何処で励まされればいいんですか、それ?」
皮肉でも何でもなくの、純粋に何が何だかと思ったらしく。
紫と琥珀の入り交じった朝空の瞳をぱちくりと瞬かせ、
キョトンとした敦だったのへ、
「世の恋人たちのよに、共に聖夜を満喫できずとも、
晴着をまとって初詣に出向けなくとも、
案外と思わぬところで邂逅できようというものでね。」
ふふふんといやに自信にあふれたお顔で、確信めいたお言いようをする教育係さんは、
「斯く言う私なぞ、
昨年のクリスマス前後に
芥川くんが敵対組織の成敗に向かうところを街角で見かけること数回。
年の暮れには 蛞蝓付きの制圧とがちゃんこして、途中から共闘状態となり、
あの子の成長ぶりを間近に見られてほくほくしたものだ。」
「…そういや そんなこともありましたね。」
蛞蝓って言うのはやめて下さいと、ちろり眉間にしわを寄せたものの、
当時はまだまだ全然、知り合いでもなかった中也が率いていた、
芥川と黒蜥蜴との共闘と発展し
一緒くたになって同じ闇金の事務所ビルに突入したのがちょうど昨年の年の暮れ。
世間一般の恋人同士のような長閑なイベントには参加できぬが、
何の何の、想定外な遭遇率は高いのだから問題ないとでも言いたいらしく。
“それって物騒な事案に縁があるところが同じレベルだってだけなような…。”
あんまり嬉しがってちゃあいけないんでは?と
一般常識的にはそうと感じたものの、
「……ボクららしいっちゃらしいですかね。」
くすっと小さく吹き出して、
やっとのこと、そのお顔にまろやかな喜色を乗っけた虎の子くんだったのだった。
to be continued. (17.11.28.~)
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*相変わらずの見切り発車です。
もうちょっと書き溜めてからのUPの方がよかったかな?
師走前という設定ですが、クリスマスへ食い込んだらヤだなぁ…。

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